○広域窓口サービスについて
1.「広域窓口サービス」の概要
正式名称は「おおいた広域窓口サービス」。大分県内の市町が参加し、参加している市町ならどこでも「住民票の写し」「戸籍謄・抄本」「印鑑登録証明書」など各種証明書の交付が受けられる、という制度。
・当初、大分市がリーダーシップをとり、平成18年7月にスタート。参加しているのは
大分市、別府市、杵築市、由布市、九重町、日出町の4市2町。(日出町は9月から)
・地図で見ると県下で飛び地はなく、県内中央部でそれぞれに隣接した区域となってい
る。
・由布市から大分市に勤めに出ている人が大分市役所で住民票を取ることができる。
・スタートしたばかりで、これから企業などへのPRが課題である。
・先進地として、岐阜県、富山県で実施されているのを参考にした。
・システムはISDN回線を使用、G4モードで対応。パスワード機能付き。
・費用の市町間の精算は、年度末に1度行なう。1件につき150円を委託手数料として
発行した市町に支払い、精算する。
2.由布市のまちづくりについて
@大分県大分郡内の挟間町、庄内町、湯布院町の3町が18年10月に合併して誕生。
従来の広域行政組織を形成していた地域。(野津原町のみ離脱)
議員定数で特例を適用しない。合併当初から収入役を置かない。
庁舎の設置で独自の方式。旧3町役場にそれぞれの部課を割り振る。
Aまちづくりの特徴
湯布院には年間410万人の観光客。
人口は12000人。毎日、住んでいる人と観光客が同数。
観光経済優先か、住民の暮らし優先かで議論。
隣接して別府がある。湯布院はこれを追随、模倣する「歓楽型温泉地」でなく、保養
型温泉地」=ヨーロッパ型=を目指す。(西ドイツを視察)
自然景観、農村景観こそ湯布院の命。そこで農村景観保全事業に取り組み、「潤いのあ
るまちづくり条例」を制定した。
B理念は「市民が主役」
「住んでいる人も、訪れる人も、いのちの循環を大切にするまち」をキーワードに。
「市民総ボランティア」、「地域自治」、「行政・市民・企業が一体」のまちづくり。
市民が知恵を出し、実践に移すことを重視。
C具体的な施策
・地域の「消防OB団」の創設
・「昭和のムラ」「平成のマチ」づくり
・「地域健康保健士」事業
・「ゆふのラジオ体操」を地域ぐるみで実践
・ゆふの道、ゆふの川、ゆふの味…ゆふの自慢の検証
・向こう三軒両隣の社会づくり
D市の施策
・くるりん号(福祉バス、スクールバス、コミュニティバス)運行
・就学前まで、幼児の医療費を無料化
3.感想
@広域窓口サービス
由布市はこれまで広域行政圏で結ばれていた3町が合併して誕生したばかりの市です
が、合併の作業とほとんど並行して、隣接市町との広域窓口サービスを実現したのは見
事であると思います。
由布市の前に訪問した日田市でも消防業務をはじめ広域での事務が活発なように見受
けましたが、それは九州という広大な地理的背景も作用しているのかも知れません。
しかしこのことを丸亀市や香川県と比較して考えて見ますと、広大な面積に少ない人
口だから合併、あるいは広域事務をするのか、それとも逆に小さな面積に密集した状況
だから合併するのか、少しわからなくなります。
いずれにせよ、「合併で市役所が遠くなる」という一般的な合併のデメリットを、本件
のように隣接市町にまで大胆に窓口サービスエリアを拡大して克服しているのはすばら
しいと思います。
丸亀市でも17年度末から、年度の切り替え時期の日曜開庁が試みられていて、繁忙期
の市民ニーズに応えようとしておりますが、年間を通じ、このように市外でも市役所に
行く仕事がすませられるというのは魅力的な制度です。
丸亀市の現状に照らして考えると、現在の広域圏でこのようなシステムを導入する意
義はあまり大きくなく、やはり県都高松市が参入しなければメリットは見込めないと思
われます。現在の中讃広域圏で行なっている業務には、観光ネットワークなど、さらに
内容を拡充していく余地があると考えていますが、これとは別に、狭い香川県ですので、
高松市を中心としてこうしたサービスを模索することは意義があると思います。
パスポートの取得や運転免許証の書き換えなど、徐々にですがわざわざ高松市や県庁
に赴かなくてもいいようになってきています。交通手段の拡大で高松がいくら近くなっ
たとはいえ、その恩恵にあずかれない住民も多いことにかんがみ、行政が積極的にサー
ビス拡充に打って出る姿勢は非常に今日的で、良いことであると思いました。
A由布市のまちづくり
列車からの眺めはまことにのどかで、ところどころに「わらこずみ」も見られました。
実はここにも「市民の知恵」が隠されていて、農村風景を大切にする考えから、あえ
てわらこずみの景色を残し、これを牛の飼料とし、また稲刈り後は牛に踏ませ、肥料と
なって田に返す、というサイクルを形作っているそうです。
また、湯布院のホテルには1室単位の「協力金」を求め、これを原資にして町の環境
保全活動をしているとのことです。タクシー業者にも協力を求めているとのことです。
市民が主役、というスローガンは、役所の姿勢をひとつ誤れば、「住民になんでも任せる→丸投げする→市役所は無関心」という構図になります。由布市にお邪魔して担当職員の熱意あふれる説明を傾聴すると、なるほど、市役所が積極的に市民の生活現場に出かけていく、いっしょに創り出す、という姿勢で臨んでいるからこそ、「市民が主役」という言葉を市民も受け入れ、行動していくのだと思います。
何度も行政から「市役所と市民は対等の関係」という言葉を聞きますが、それは消極的に、「市民の上に市役所があるのではない」という、今日、ごく当たり前のことを言っているに過ぎず、本当は「市民の縁の下に市役所がある」というほどの自覚と考え方で臨んでほしい、そのように、今回の視察で強く感じました。
由布市を訪問したあと、私たちは大分県庁に移りましたが、ここでの視察内容と考え併せても、県や市がどれほど細かく住民に配慮できているかが、行政のいわゆる「品質」なのではないでしょうか。
由布市は3町が対等に合併、丸亀市は1市2町の合併と、違いはありますが、それぞれの伝統と特色を死なせることなく、一体感を醸成するという作業は簡単なことではありません。市役所が深い政策の考究と体制整備を図り、住民から「また来たか」と言われるくらい、行政がまちづくりの最現場で働いている、このような状況を作り出さなければならないとあらためて感じた次第です。